日本大学 文理学部 物理生命システム科学科

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外川 徹 研究室 研究紹介

昆虫の体表はクチクラに覆われており,これがいわゆる「外骨格」を形成しています。昆虫は,脱皮の際に古いクチクラを脱ぎ去り,新しいクチクラを合成することで成長します。また,あるタイミングで変態を伴う脱皮を行うことで性成熟へと向かいます。この時には,形態の大きな変化とともにクチクラの様態も大きく変化します。そこで私たちは,特にこのクチクラに注目して脱皮と変態の分子メカニズムの理解を目指しています。例えば,脱皮の際には急激にクチクラが合成されますが,それはどのような遺伝子がどのように機能することで実現されているのでしょうか。また,変態を通して幼虫のクチクラから蛹のクチクラへ,さらに成虫のクチクラへと変化していきますが,この分子基盤はどのようなものなのでしょうか。このようなテーマに対し,現在は主にカイコガを実験動物として用いて取り組んでいます。
 
»昆虫クチクラタンパク質遺伝子クラスターにおける遺伝子発現調節
»幼若ホルモンシグナル伝達の分子メカニズム

 

昆虫クチクラタンパク質遺伝子クラスターにおける遺伝子発現調節

ガンビエハマダラカ (Anopheles gambiae)のCPR遺伝子の発現パターン

図1-1.ガンビエハマダラカ (Anopheles gambiae) のCPR遺伝子の発現パターン
152個のCPR遺伝子の発現パターンを似通ったものでグルーピングした。橙色と黄色が1齢-4齢の幼虫期,桃色が蛹期,赤色が成虫期を示す。

昆虫の体表はクチクラで覆われています。このクチクラは,発生段階によって,つまり例えばカブトムシの幼虫と成虫とでは,その様態が異なります。クチクラの主成分は,キチン繊維とクチクラタンパク質なのですが,このクチクラの性質の違いは,一つにはクチクラタンパク質が異なるからだと考えられています。事実,数多くあるクチクラタンパク質遺伝子の発現を調べてみると,発生段階に従って非常にダイナミックなパターンで発現していることがわかります(図1-1)。

クチクラタンパク質にはいくつかのグループがありますが,その中の最大のグループであるCPRは,それぞれの種において200種類ほど存在します。その遺伝子の多くは染色体上で遺伝子クラスターを形成しています。クラスターを形成しているCPR遺伝子の発現パターンを見てみると,興味深いことに,同じ発現パターンを示す遺伝子の「島」があることが分かりました(図1-2)。同じクラスター内でもこの「島」の外にある遺伝子は異なるパターンで発現します。
昆虫の脱皮・変態は脱皮ホルモン(エクジソン)によって調節されており,CPR遺伝子もエクジソンにより発現調節されていることが知られています。しかしながら,エクジソンのシグナルがどのようにこの「発現の島」を調節しているのかは分かっておらず,その解明に取り組んでいます。
 

図1-2.ガンビエハマダラカ (Anopheles gambiae) 第2染色体左腕にあるCPR遺伝子クラスター

図1-2.ガンビエハマダラカ (Anopheles gambiae) 第2染色体左腕にあるCPR遺伝子クラスター
この領域に38個のCPR遺伝子が存在し,水色および青色で示した範囲の遺伝子はそれぞれ同じパターンで発現する。


 

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幼若ホルモンシグナル伝達の分子メカニズム

DNAマイクロアレイ

図2.DNAマイクロアレイ
スライドグラスの各区画にカイコガ由来の44,000種類のDNA配列が固定されている。JHで処理した細胞と無処理の細胞からRNAを調整し,それぞれをCy5(赤)とCy3(緑)でラベルして,DNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションさせることで,両者で発現量に差のある遺伝子を網羅的に探索することができる。

昆虫の脱皮と変態は脱皮ホルモン(エクジソン)により誘導されます。しかしながらその脱皮が変態を伴うか否かは,もう一つのホルモン,幼若ホルモン(JH)により決定されます。つまり,JH存在下でエクジソンが分泌されると幼虫は幼虫に脱皮し,JHが消失した後にエクジソンが分泌されると幼虫は蛹へ脱皮し,さらにエクジソンで成虫への脱皮が誘導されます。このJHのシグナル伝達経路は長い間謎に包まれていましたが,近年になりその受容体タンパク質などが急速に明らかになってきました。

 

JHには変態調節以外にも様々な生理機能があります。例えば,生殖成熟や卵黄タンパク質の合成誘導,そしてシロアリなどの社会性昆虫のカースト分化にもJHが作用します。それゆえ,JHのシグナル伝達経路も多岐にわたることが予想されます。そこで,JHシグナル伝達のさらなる理解を求めて,新たなJH誘導性の遺伝子の発見を試みました。カイコガの培養細胞にJHを作用させ,発現量が変化した遺伝子をDNAマイクロアレイ(図2)を用いて網羅的に探索したところ,hairy遺伝子の発現が上昇していることが分かりました。hairy遺伝子はショウジョウバエやマウスにおいて神経細胞やグリア細胞の分化に関わることが知られています。また胚発生期のマウスにおいて体節の分節化に必要であることも報告されています。この遺伝子がJHのシグナル伝達でも機能しているのかもしれません。
 

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