日本大学 文理学部 物理生命システム科学科

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茶圓 茂 研究室 研究紹介

研究テーマ

私たちが走ったり物を持ち上げたりする時、筋肉が収縮します。このとき、筋肉のなかの生体分子モーターというタンパク分子(大きさは約10ナノメートル)が働いています。このタンパク分子は、人工機械とは全く違った原理で働いていると予想されています。私たちの研究室では最新の技術を使って、この小さな生物分子機械の働く仕組みを調べています。
 
»生体分子モーターの1方向性運動の基本原理に関する研究
»負荷をかけた筋原線維の収縮時におけるATP分解速度の直接測定
»負荷依存ADP遊離の1分子計測
»ミオシン分子のSH1ヘリックスの働き
»ミオシンフィラメント上のアクチンの滑りの2つのモード(端から中央へ、中央から端へ)の反応機構にかんする研究
»ミオシン(筋肉の中の生体分子モーター)フィラメント上をアクチンフィラメントが滑っている系(In Vitro Motility Assay System)におけるATP分解反応の直接測定
 
 
 

生体分子モーターの1方向性運動の基本原理に関する研究

筋 肉の収縮を引き起こすアクチン・ミオシン分子、神経内で物質の輸送を行っている微小管・キネシン、ダイニン分子など、生体の中では、力を出し、自ら動き、 あるいは物を動かすタンパク分子があります。これらは総称して生体分子モーターと呼ばれています。これら生体分子モーターは、レールとなるタンパク分子 (アクチン線維、微小管)の上を1方向に動いて「仕事」をしています。レール上を行ったり来たりのランダムな運動では仕事ができません。ここでは、その1 方向の運動がどのような原理に基づいているかを研究しています。2つのことが考えられます。
1.ATP(分子モーターのエネルギー源)の結合、分解いよって引き起こされる分子モーターの構造変化そのものが1方向の滑りを起こす。
2.分子モーターどうしがくっついたり、離れたりする速さが、両者の間の力学的負荷の正と負とで非対称に変化する。
 
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負荷をかけた筋原線維の収縮時におけるATP分解速度の直接測定

上に述べた2.の可能性、つまり、分子モーターどうしの結合、解離の速さが負荷の大きさに依存するかどうかを筋原線維を用いて調べました。アクチン、ミオシ ンの解離はATPによって起こりますが、それまでに保持していたADPの遊離が律速になっていると考えられていますので、ADPの遊離が負荷に対して非対 称かどうかを調べればいいことになります。我々は、筋原線維のミオシンにあらかじめ蛍光ATPを結合させておき、ケージドATP(そのままではATPとし てはたらきませんが、強い光をあてるとケージドの部分がとれてATPとして働くATP類似物質)の光分解によってできるATPで筋原線維を活性化し、ミオ シンに結合した蛍光ATPをATPに置き換える実験を行いました。この実験では、筋原線維の蛍光強度の減少の時間経過からADP遊離の速さが調べられます。

また、この筋原線維の収縮には負荷がかけられますので、ADP遊離の負荷依存性が見られます。実験結果はADP遊離の速さが負荷に依存して変化するというものでした。
 
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負荷依存ADP遊離の1分子計測

しかしながら、上述の筋原線維レベルでの結果は「アクチン・ミオシンからのADP遊離が負荷に依存するかどうかの直接的証拠」とは言えません。というのは 直径1ミクロン、長さ50ミクロンの筋原線維の中に含まれるミオシンは約100万個あり、その測定値は100万個の平均値になります。100万個の1個1 個は違う力学状態にあり、ケージドATPの光分解によってATP濃度をジャンプさせ、初期状態を合わせたとしても、個々のモーターは本質的に確率的である ために、時間とともに個々の力学状態が違ってくるからです。そこでこの問題を克服するために、最近、開発された1分子計測技術をつかって負荷依存ADP遊 離の1分子計測を試みています。(平成14~15年度科学研究費補助金(基盤研究(C))採択課題)

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○で囲った部分が実験系。光ピンセットで捕まえた2個のビーズにアクチンフィラメントを張り、中央部分にあるミオシン1分子と相互作用させる。力発生は ビーズの変位を4分割フォトダイオードでナノメートル計測し、蛍光ATPの結合・解離は対物型エバネッセント照明による1分子イメージングによって調べる。

 

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負荷依存ADP遊離の1分子計測

遺伝性難聴の原因の1つであるDFNA17には、MYH9というミオシン重鎖遺伝子が含まれていて、その詳細なDNA解析の結果、そのミオシン重鎖の 705番目のアルギニンがヒスチジンに変異していることが報告されている。この変異はATP分解による化学エネルギーが滑り運動の力学エネルギーに変換さ れる重要なドメインであると予想されているSH1へリックスにある。我々は、細胞性粘菌に遺伝子工学の手法を用いて、705番目のアルギニンをヒスチジン に置き換えたミオシン変異体(R705H)を発現させ、そのミオシン上でのアクチンの滑り速度を In Vitro Motility Assay 法により、また発生する力をレーザー光ピンセット法により、運動機能解析を行った。そして、変異ミオシンについて以下のような興味深い実験結果が得られ た。
(1)アクチンの滑り速度が野生型の1/4に減少。
(2)力発生時の1分子のストロークは約3nmで野生型と変わらないが、その弾性係数は1/5 に減少。
(3)熱安定性の低下。
(4)ドメイン構造変化速度定数の活性化エネルギーの減少。以上の結果はアクチン・ミオシン構造変化のエネルギー変換に SH1へリックスが重要な役割を果たしていて、ミオシン分子内での力学的弾性要素の位置を世界ではじめて明らかにした。
J. Biol. Chem. 281(41), 30736-30744. (2006)
(平成18~19年度科学研究費補助金(基盤研究(C))採択課題
 
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ミオシンフィラメント上のアクチンの滑りの2つのモード(端から中央へ、中央から端へ)の反応機構にかんする研究

滑り速度のアレニウスプロットから計算した活性化エネルギーは、端から中央に向かう滑りでは44±5 kJ/mol、中央から端に向かう滑りでは79±4 kJ/mol端に向かう方が、中央に向かう方より、高い活性化エネルギーを示した。
ア クチンフィラメントはミオシンフィラメントの端から中央に向かって滑るのが生理的で、中央から端に向かって滑ることはない。それはアクチンフィラメントと 相互作用するミオシンの頭の向きが、アクチンフィラメントが端から中央に向かうように最適の角度をもっているからである。したがって、中央から端に向かう アクチンフィラメントを滑らすには、ミオシンの頭は180°回転して、相互作用しているのではと考えられてきた。これまで、こういう相互作用下で遅くなる 原因がわからなかったが、今回の活性化エネルギーを調べる実験で、180°回転したミオシンの頭ではADPを遊離するタンパク構造が固くなっている可能性 を示唆し、そのために速度が遅くなることを示した。
 
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Biochemical and Biophysical Research Communications. 396(2):539-542. (2010)
 
 
 

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ミオシン(筋肉の中の生体分子モーター)フィラメント上をアクチンフィラメントが滑っている系(In Vitro Motility Assay System)におけるATP分解反応の直接測定

ミオシンに結合した蛍光ADPをCagedATPの光分解によるATP によって置き換える実験装置(左図)を開発し、置き換わる速さをイメージングした。 アクチンフィラメントがミオシンフィラメントの中央から端に向かって滑る際、ミオシンの頭は180°回転して、相互作用し、この時ひねられることによってADP遊離速度を低下させ、ATPによるミオシンのアクチンからの解離を遅くしているために滑り速度が減少しているいるのではないかと考えれている(右図).しかしながら、ADP遊離速度がbackwardで遅くなっているかどうかは明らかになっていない。本研究では左図のような実験装置によって、forwardでは速く、backwardでは遅い蛍光強度の減少を明らかにし、ADP遊離速度がbackwardで遅くなっている結果を得た。
 
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BIOPHYSICS  Vol. 9: pp.13-20  (2013)

 

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